[041]
日本共産党 梨木作次郎
私は本報告書の原案のうち、結論の部分を次のように修正する動議を提出いたします。
結論
神戸事件、京都事件、大阪事件、大津事件、名古屋事件の発生原因は
1、最近特にひどくなった朝鮮人の生活困窮失業に対し徹底した生活保護と失業対策を講じなかったこと
2、生活を極度に圧迫する重税
3、朝鮮人の民族教育の自由に対する当局の無理解と圧迫
4、集会に対する不正な禁止
5、憲法第14、19条の保障する思想、信条の自由並びに平等の原則に違反する、いわゆる「赤追放」の暴挙を強行したこと
6、警察が集会、陳情、示威行進などの大衆行動に対し不必要に警官を動員して大衆を挑発し、弾圧したこと
に存する
従って、これらの不幸なる事件をなくするため、生活保護、重税の廃止、集会・言論、思想、信条の自由並びに平等の原則を保障するとともに、警察の行き過ぎをやめさせることなどの対策を徹底的に実行すべきである。
神戸事件、京都事件、大阪事件、大津事件、名古屋事件の発生原因は
1、最近特にひどくなった朝鮮人の生活困窮失業に対し徹底した生活保護と失業対策を講じなかったこと
2、生活を極度に圧迫する重税
3、朝鮮人の民族教育の自由に対する当局の無理解と圧迫
4、集会に対する不正な禁止
5、憲法第14、19条の保障する思想、信条の自由並びに平等の原則に違反する、いわゆる「赤追放」の暴挙を強行したこと
6、警察が集会、陳情、示威行進などの大衆行動に対し不必要に警官を動員して大衆を挑発し、弾圧したこと
に存する
従って、これらの不幸なる事件をなくするため、生活保護、重税の廃止、集会・言論、思想、信条の自由並びに平等の原則を保障するとともに、警察の行き過ぎをやめさせることなどの対策を徹底的に実行すべきである。
かように修正するように動議を提出するのであります。
提案の理由を簡単に御説明いたします。報告書原案を見ますと、どうも偏見と先入観にとらわれて調査したのではないかという形跡が見受けられます。このため事実の調査が正確を欠いて、曲げられている点が非常に多いのであります。私どもといたしましては、結論に先立つところのいろいろな事実については、いろいろ修正しなければならない部分がたくさん存在するのでありますが、しかしこれは非常に大部にわたる報告書について一々修正することは、その煩にたえないので、結論だけについて修正意見を提出したのであります。
私たちの考えでは、国会のこの国政調査は、人民の生活安定と幸福を保障するために、この目的に合致する政治をつくり出すのに役立つように調査し、資料を作成しなければならないと考えるのであります。ただ、すでに起った事件について、それがどうして起ったかという政治的、社会的経済的原因を掘り下げて調査検討しないで、事件の表面、すなわち現象面だけを調査するというようなこと、これでは国会の行う国政調査に値しないと考えるのであります。こういう点から本件の結論を見ますと、これは単に私たちから見まするならば、実際は偏見と予断の上に立って事実を調査し、その調査した事実について、単に現象的に事実の分析をし、これを性格づけているというものでありまして、これでは何のための国政調査かさっぱりわからないという意味からいたしまして、私たちの考えでは、やはりこれが国政に役立つような結論を出さなければならぬ、そういう点で事件の原因はどこにあったかということを浮きぼりにし、そうして政府はこれに対してどういう対策を立てなければならぬか、こういうような結論にならなければならぬという意味合いにおきまして、ただいま提出しましたような修正意見を出した次第であります。
[042]
委員長 安部俊吾
これにて修正意見の趣旨説明は終りました。これについて質疑はありませんか。
[043]
公正倶楽部(会派) 世耕弘一
ちょっと2点ばかりこの修正意見についてお尋ねいたしたいと思いますことは、梨木君の今の御説明によりますると、神戸事件その他の事件がどういうふうに観測されておるのかという点が疑問になるのです。押谷君その他の意見、説明を聞いておりますと、あれは政治的権力闘争だというふうに、非常に重要視して取扱わなければならぬ、こういう説明になっておるように聞えるのです。ところが梨木君の説明から見ると、むしろあれは生活闘争であるという。その間には大きな開きがある。まず梨木君にお尋ねしたいのは、あれは騒擾事件として認めるのか、あるいはただ単なる、平穏なる運動にすぎなかったのかどうかという点について食い違いがあるように思いますから、その点をまずお尋ねいたしたいと思います。
[044]
日本共産党 梨木作次郎
私たちの常識では、あの程度の事件は刑法上の騒擾事件に該当するというのは、少し大げさであるというように私は考えております。それが第1点。
それから第2番目には、実際非常に朝鮮人の生活が窮迫しておる。また教育問題で非常に圧迫されておる。それからまた集会に対する不当なる禁止が行われておる。こういう現実がありまして、そこから自然発生的に、それに対する反対あるいは陳情、こういうものが起って来たのでありまして、この調査報告書にあるような計画性はなかった。これは具体的に私も事実を聞いておりますが、そういう計画的なものではなかったというように、私たちは調査の結果観測しております。以上です。
[045]
公正倶楽部(会派) 世耕弘一
もう1点伺っておきます。神戸その他の事件は、ごく平穏な形式において行われたものであるかどうか、あるいはその間において暴力ざたに及んだのではないか、その暴力ざたをどういうふうに梨木君たちは解釈するのか、あるいは暴力ざたを全然否定するのか、そんなことはなかったというのか。その点が審議する上において非常に重要なポイントではないかと思いますので、重ねてお尋ねしておきます。
[046]
日本共産党 梨木作次郎
神戸事件におきましては、警察との間にいろいろないざこざがあった。その過程におきまして、暴行ざたもあった事実は、私たちも聞いております。以上です。
[047]
公正倶楽部(会派) 世耕弘一
聞いておるのではなくして、事実をあったと認めるのかどうかということであります。
[048]
日本共産党 梨木作次郎
暴行ざたのあった事実は認めます。
[049]
自由党 田嶋好文
私質問をいたさないつもりでございましたが、世耕委員の質問に対しましてもう少し補充しておく必要があると思いますので、質問を関連していたします。この修正案提出者に対して伺いますが、暴行した事実は今お認めくださいました通りでありますが、この暴行の状態といたしまして、われわれが調査報告書に出してあります、婦女子並びに少年が先頭に立って行動した事実、それから神戸事件におきましては、とうがらしだとか、その他まき割りだとか、まきだとか、石だとか、名古屋事件におきましても同様に包み入れたとうがらしを持って生徒が先頭に立って、大人でなく子供が先頭に立って騒ぎ、暴行した、こうした事実は否定なされますか、お認めになりますか。
[050]
日本共産党 梨木作次郎
西神小学校で11月27日集合しておる。その周囲を武裝警官が1000名を越えるのだろうと思うのでありますが、これを包囲した。そのとき一体これはどうなるのかということで、そこに集まっていた大衆が非常に不安がって、一部の人たちは自己防衛のために、そこで割木を急場に用意したという事実はあったというように私たちは聞いております。そして一部にはとうがらしを包んだものを用意して来た者があった。それはそういうように武装警官が包囲したものだから、そのときとっさに自己防衛的にとうがらしを用意したものだ、こういうふうに私は聞いております。
[051]
自由党 田嶋好文
それではもう1つ確めておきます。あなたの方は調査をしないで、聞いたことによってこの結論をお出しになったのでありますか。
[052]
日本共産党 梨木作次郎
もちろん私の方は聞いたこともあるし――私が直接調査したのではなくて、調査に行った人の調査報告に基いてそういうような事実をわれわれの方では認定しているのであります。
[053]
自由党 田嶋好文
その調査報告の中に、今私がお尋ねしたような事実があったかどうか。
[054]
日本共産党 梨木作次郎
あったです。
[055]
自由党 田嶋好文
よろしゅうございます。それを御確認願えば結論はおのずから出る。
[056]
委員長 安部俊吾
質疑は終局いたしました。これより討論に入ります。なお討論時間は大体賛成反対とも1時間以内にいたしたいと思います。御異議ありませんか。――御異議はないようでありますから、さように決しました。それでは本報告書原案及び修正意見を一括して討論に付します。討論は通告順によってこれを許します。北川定務君。
[057]
自由党 北川定務
簡単に申し上げます。神戸その他の地における騒擾事件につきましては、現地派遣委員の報告はきわめて詳細であり綿密でありまして、しかもこれは事実に基いて作成報告せられたものであります。梨木委員からこれに対する御意見の一端といたしまして、この報告書は偏見と予断によって作成せられたものであって、しかも正確を欠き、事実を歪曲したる報告であるというような言葉があったようでありまするが、これはひっきょうするに思想及び立場の相違でありまして、私はここに自由党を代表いたしまして、ただいまの報告書を委員会の報告といたしますることに全面的に賛成いたしますと同時に、梨木委員から提出せられました修正案につきましては、反対の意見を表すものであります。
[058]
委員長 安部俊吾
梨木作次郎君。
[059]
日本共産党 梨木作次郎
私は、日本共産党を代表いたしまして、報告書原案については反対、修正意見について賛成の討論をいたします。
国会の行う国政調査は、憲法第41条の明記する国会が国権の最高機関であるということから当然生れ出て来たものであり、これを受けて憲法第62条は、両議院の国政調査に関する具体的な規定を定めたものと理解すべきであると信ずるのであります。従って国会の国政調査は、先ほど申しましたように、人民の生活安定と幸福を保障するため、この目的に合致する政治をつくり出すのに役立つための調査であり、資料でなければならないと思うのであります。すでに起った事件について、それがどうして起ったかという政治的、社会的、経済的原因を掘り下げて調査検討しないで、単に事件の表面、すなわち現象面だけを調査するがごときは、およそ国会の国政調査に値しないものと言わざるを得ないのであります。しかるにこの報告書では、いわゆる騒擾事件と称するものの事件の経過について、これを偏見的に認定し、羅列的に記述し、これらの現象的事実に対する独断的な解釈を結論として出しているに過ぎないのであります。事件の根源である朝鮮人の生活の困窮、たえがたい重税、民族教育の自由に対する圧迫、日鮮両人民に対する思想、言論、集会の自由に対する強圧などの実情については、ほとんど何らの調査も行われなかったことは、私の質問によっても明らかになっておるのであります。国家行政機構の一部を担当する検察庁が事件を取扱うと同じような態度でこの報告がなされておるのであります。これでは国権の最高機関である国会が、検察庁のお手伝いをしているのに等しいと言われても弁解の言葉がありますまい。かかる観点から、本報告書の内容の不当と事実と相違する若干を指摘いたしますならば、次の通りであります。
第1、神戸事件。1、報告書では、11月20日の陳情事件を最初に取上げて、これがあたかも計画的になされたかのように述べておるのであります。ところで、神戸市長田区長神崎氏も認めておる通り、その以前においても重税に困った朝鮮人が同区長に陳情しておる事実があります。たとえば11月17日、約20名の朝鮮人が税金の減免、延納の陳情をしておるのであります。調査団の報告によりますると、これも調べたが調査と関係がないので報告しないというのであります。これは事実の報告を不当に曲げておるものであります。
第2、神戸事件の原因について。この原因は次の4点に要約できると思います。すなわち、1、朝鮮人の生活の困窮、失業対策の貧困、2、生活と圧迫する重い税金、3、朝鮮人学校閉鎖後の朝鮮人教育に対する政府施策の不当、4、警察の不当な挑発的弾圧、これであります。神戸市内には2万人の朝鮮人がおり、その半分に近い約8000人が長田区内に住んでおると言われておるのであります。これらの朝鮮人のうちゴム工業で生活している者が相当数に上っていてのでありますが、ゴムの統制撤廃後、大企業のためこれらの小さいゴム工業がほとんどつぶされて職を失ってしまったことや、ブローカー商売もやみ市場の縮小に伴って成り立たなくなったことなどから、これらは大部分が日雇い労働者となり、職業安定所に対して職を求めざるを得なかったのであります。ところで職業安定所神楽出張所の加藤年春氏の話によりますと、有効登録総数約4000人、このうち毎日来ておる者が約2400人、あぶれは400人程度であります。就労平均は休日、雨天を除いて全部出て来た者だけの平均で17日、全体の平均は13日であるというのであります。朝鮮人の登録者は300人くらいであるが、最近は非常にふえつつあると言っておるのであります。また病人や老人や婦人子供で働くことができないで困っておる者が非常に多いのでありますが、これらに対する生活保護法による救済が切実な問題となっていたのであります。たとえば生活状況の一例を申しますと、長田市苅藻通5丁目892番地の申相殿という人について申しますならば、家族は母48才、妻37才と子ども4人で暮しておるのであるが、子ども2人は学校に通っておる。同人の話によりますと、私は戦争で足を悪くしたので満足には働けないから、月に多くとも3000円にならない。そのために母が鉄くず拾いに行くこともあるが、1日掘っても40円ぐらいである。税金は1回が430円で、1年合計1300円程度とられておる。1箇月にガスは500円以上、水道が300円、電気が200円から250円はかかっておる。その上4畳半と3畳で、最近家賃を上げられて370円もとられているので、子供の学校の費用400円も満足には納められない状態である。だから配給も、米だけは5日分で約600円はとるけれども、ほかのうどん粉やパンはまとまってはとれない状態である。私は日本に来てから10年ぐらいになるけれども、戦前、戦後、現在を通じて今が一番苦しい。どうしたらよいかと思っている。この近所には私よりももっと苦しい人もたくさんいる。去年の1月から生活保護を受けていたが、3月でぴったりととめられてしまった。こういうように物語っておるのであります。
さらに朝鮮人学校の問題について見ましても、1947年3月20日の学校閉鎖、1949年9月8日の朝連解散に続いて、朝鮮人の民族教育に対する日本政府の圧迫が強化されていたのであります。朝鮮人側の要求は次のようでありました。1、朝鮮人学校の教育は日本政府において引続き全員採用すること、失業者の生活を保証すること、2、朝鮮の地理、歴史、国語、音楽を教科課目に入れること、というのであります。なお、朝鮮人学校の校舎問題については、交渉の結果、朝鮮人側からは校舎を無償で提供する、そうしてこれは日本の学校の分校として取扱う、こういうことに妥結しておったのであります。以上のような朝鮮人の要求について、当局とはしばしば交渉が持たれていたのでありますが、いまだ解決を見ていなかったのであります。しかし朝鮮人学校を閉鎖し、これを日本の学校の分校として取扱う限りは、学校経営の費用や教員の給料は、日本政府において負担するのが当然であると思います。それにもかかわらずこれがなされなかったために、学校の校舎はボロボロになり、教員の給料は平均7万円ないし8万円の遅配があったといわれておるのであります。
以上がわれわれの調査した朝鮮人の生活実態であり、教育問題の実情であります。そこで区役所に対する陳情に学童が多数参加したというのは、学童の重大関心を呼ぶ教育に関連した問題が存在したという点が多かったのによるのであります。報告者のように、強圧を緩和するために、ことさら学童を先頭に立てたというがごときは、これはきわめて一面的皮相な観察といわざるを得ないと思うのであります。
次に警察の挑発と不当弾圧について申します。報告者も認めておりますように、11月27日事件におきましては、参集した朝鮮人の総数は900人、その内訳を見ますと、400ないし500は小、中学生であったということが、これは報告者も認めております。これに対しまして神戸警察局は当日午前11時、早くも非常召集を発しまして、全員2201各を動員しておるのであります。そのほか国家警察兵庫県本部では、午前10時に乙号非常召集を発しておるのであります。われわれの調査では、これに動員されたものは、約400名ということになっております。こうして警戒警備態勢をとっておるという事実に明らかなように、朝鮮人側は女、子供がその半分を占めておる実情から見ますと、警察の動員した2500~2600、この警察側の動員の実力というものは、朝鮮人側に比較いたしまして、4倍ないし5倍の実力を持っておったということは明白であります。当日の目撃者の話によりますと、警察はあたかも初めから暴徒鎮圧の予行演習を、この日を選んでやったのではないかという印象を受けたというのも、警察の動員態勢から見まして、さもありなんと思われるのであります。調査団の説明によると、動員された警察官は物陰に隠れていたといいますが、実際は西神小学校を包囲して、ピストルを入れたり出したりなどして、盛んに威嚇挑発を加えたといわれているのであります。われわれの調査によると、警察側のこのものものしい動員ぶりを見て、どういう事態になるかもしれぬとの不安に襲われたごく一部の者が、自己防衛のために割木などを用意したといわれているのであります。あらかじめ用意し計画したというのは事実に反するのであります。
また長田地区以外から参集した者のあったことは計画的であると報告者は認定している。しかしこれは次のような事情によるのであります。朝鮮人学校は朝鮮人にとって教育の場所であると同時に、クラブのような場所として集会にも利用されているのであります。しかも西神小学校には神戸市内だけではなく、兵庫県下の各所から朝鮮人の子弟が通学しているのであります。そこで11月24日、多くの父兄や教員が検挙された事実は学童を通じ、たちまち全県下に伝達されたことは当然でありますし、ことの推移を心配した人たちが、27日に自然発生的に西神小学校に集まったというのが、事の真相であります。11月27日、多数の朝鮮人が集合した直接的なものの一つは、11月20日の不当逮捕に端を発しているのであります。ところで11月20日の逮捕は区役所で乱暴したということが理由ではないのであります。現場に動員された警察が、おとなしく陳情に来ている朝鮮人を逮捕する理由がどうしても見つからないために、区役所から帰ろうとする朝鮮人に対して一人々々外国人登録証を出せと要求し、持っていないものをやにわに逮捕したのであります。当時登録証を持っていなかった者は主として婦人であります。それは区役所に行くのだからというので、ふだん着をチマという朝鮮人の服ですが、チマに着かえたのであります。チマにはポケットがないので落してはいけないということで自宅に置いて来た者が多かったのであります。ところでこういう理不尽な逮捕に驚いてかけつけた子供たちが、登録証を持っておらないということで逮捕するならば、家まで行って持って来るから待ってもらいたいと言って警官にすがりついた。そうして父母の釈放を求めた。そうして警察のトラックに近寄るや、老幼の見さかいもなくこん棒を振りまわして、子供を含めて18名を逮捕したのであります。報告者はこの事実を警備自動車の前に中学生をすわり込ませ妨害行為に出たと事実をひどく曲げているのは、私は悪意に満ちている認定だといわざるを得ないのであります。区役所で朝鮮人が暴行を働いて検挙され、この奪還をはかって妨害に出で、これが11月27日の事件となったものであるかのように一般では信ぜられており、本報告書はこれを裏づけようにつくられておりますが、しかし事実はさきに述べた通り、警察の明らかな不当逮捕に端を発しており、警察の挑発に原因している点が重要視されなければならないと思うのであります。11月27日のごときは長田区役所に向って行進する行列に対して、警官隊がうしろから石を投げ、列を混乱させ、なぐるけるの乱暴を働き、朝鮮人側に多数の負傷者を出した事実に徴してみるも、その暴状を察するに十分であると思うのであります。神戸事件については以上重要な諸点について調査がなされないで、事実をきわめて悪意に曲げて報告している点を指摘しなければならないと思うのであります。
(略)
次に大津事件に移ります。この事件の原因も、神戸事件において述べたと同じように、最近における朝鮮人の生活困窮が非常にひどくなっておったこと、これに対する政府の施策の無策にひとしい貧困があげられると思われるのであります。たとえば、しょうちゅうの密造を徹底的に検挙し、生活の基礎を奪っておきながら、職を与えることなどをしないで、生活保護に対する徹底した措置を全然講じておらない。しかもこれに対し、検察庁がただ強圧政策一本やりで行ったところに問題があると思うのであります。また朝鮮人から異常な反感と憤激を買うというような行き過ぎた検察のあった事実、これらが原因としてあげられると思うのであります。このことは先ほども質問いたしましたが、調査団の報告に対し検察庁が事件の関係者ではあるが、全然日本語の話せない李学根君を、その事実を承知しながら証人として出したことや、また昭和25年11月21日、別件で検挙され、いわゆる大津事件と関係のない羅元出君を、これもその事実を知りながら推薦している事実の中に、調査団に対し、不当なるさん夏の真相が知れることをおそれるうしろ暗いものを検察庁が持っていた証拠ではないかと思われるのであります。
次に名古屋事件でありますが、名古屋では教育問題が事件の重要原因であったことは、報告書も認めておりますが、しかし朝鮮人学校閉鎖後の教育の実情に対する調査がほとんどなされておらない。この点については単に抽象的にしか私の質問に答えておらない。従ってこれは神戸事件で述べたと同じ理由で調査の不当を指摘するにとどめます。
これを要するに結論として言いたいことは、本報告書原案は、冒頭にも述べた通り、いわゆる騒擾事件と称するものがどうして発生したかという根源をきわめないで、表面に現われた刑事事件を検事的に調査しておるにすぎないのであります。これは国会の国政調査ではない。かかる不幸な事件が再び発生しないような対策を立てるための資料をつくること、これが国政調査の基本方針でなければならないと思うのであります。本件調査の対象となった事件の原因は、繰返し述べた通り、
1、朝鮮人の生活困窮。
2、生活を破壊する重税。
3、民族教育の自由に対する圧迫。
4、憲法違反のいわゆる赤追放。
5、集会に対する不当禁止。
6、警察の挑発と、不当弾圧。
これにあると思うのであります。従って本件のような事件をなくするためには
1、朝鮮人に対する徹底した生活保障対策を立てること。
2、生活を破壊する不当課税をやめること。
3、民族教育の自由を認めること。
4、憲法違反のいわゆる赤追放をやめること。
5、集会の自由を保障すること。
6、警察の行き過ぎをやめさせること
であります。しかるに本報告書原案によれば、この重大な事件の原因をつかないで、結果としての刑事事件だけを取上げておるのであります。これでは事件を弾圧によってのみ取締る方向を指示する結果となり、政府に対し、警察、検察庁、裁判所等の弾圧機構の強化の口実を与えるにすぎないと思うのであります。およそ人民が平和に安定した生活をしており、労働者が不当な首切りからその生活が保障されておりますならば、だれがどんなに彼らをそそのかし、あおろうとも、陳情やデモには参加しないでありましょう。また警察が真に人民の警察として、人民の権利と自由の保護に奉仕いたしておりますならば、だれがこれに反抗し、その職務の執行を妨害するでありましょうか。しかるに本報告書原案が検事的となっているごとには、これは大いに理由があるように思われるのであります。すなわち、神戸事件などの背後に共産党がいるということで共産党非合法化の口実をつくろうとするところに、調査の意図があったように察知できるのであります。これを裏づける事実といたしまして、まず神戸事件等の調査団の委員の選定にあたり、―――――――――――――ことが伝えられた事実をあげることができると思うのであります。政府施策の貧困をたなにあげ、共産党を初めとする民主主義運動弾圧の口実をつくるため、偏見と予断で事実を曲げ、この曲げられた事実について上つらだけの性格づけをしておる報告書原案は、平和と自由と民主主義を守ろうとする良心の一かけらでも持つ者にとっては、断じて賛成し得ないものであります。
よって私は日本共産党を代表いたしまして、この報告書原案に反対いたしまして、修正案に賛成するものであります。
[060]
委員長 安部俊吾
世耕弘一君。
[061]
公正倶楽部(会派) 世耕弘一
私は、押谷君等の提出された調査報告書は、短期間の調査のため、ただちに完璧であるということは言いがたいと思いまするが、それぞれ事実に準拠して作成されているということを認められるのであります。この点に関しまして、委員諸君が、短期間にもかかわらず、この大きな事件をよく内容をうがって調査され、慎重を期せられてこの調査書ができたものと私は認定いたしたいと思うのであります。
次に共産党の梨木君の提出された調査書並びにその意見等をお聞きいたしてみますと、事実の認定についてなお調査が不十分と私は思います。特に神戸その他の事件を、単なる生活権確保のための穏健なる行動であるというふうに理論づけんとするところに、公平を欠いておるのではないか、かように考えられるのであります。
よって私は、押谷君等から提出された調査報告書は妥当なりと申し上げたいと思うのであります。特にこの際つけ加えておきたいことは、近時生活権擁護等の名目をつけて、暴力ざたあるいは巧なる脱法行為をなして、いたずらに民主主義のわれわれの生活を破壊せんとするという行動が、諸所に行われておるように思いますから、この点についてはなお慎重を期するよう要望して私の討論を終ります。
[062]
委員長 安部俊吾
田万廣文君。
[063]
日本社会党(社会民主党) 田万廣文
私は社会党を代表いたしまして、報告書の原案に対して賛成の意を表し、共産党の梨木委員から提出された修正意見に反対の意を表する次第であります。
その理由につきましては、いろいろ北川君なり世耕君からお話があったのでありますが、本調査団の一員といたしまして、わが党の猪俣浩三君が出て行かれたのであります。元来この調査につきまして、真実性を把握する立場としては、――こう申しては何ですけれども、社会党が一番はっきりしておるのじゃないかと思うのであります。その意味において、また従来報告者からいろいろ御説明がありましたが、その実態調査につきましては、短期間にかかわらず、相当深いところまで掘り下げて御調査になっている様子がよくうかがわれるのであります。共産党の梨木委員から修正意見が出ましたが、この修正意見に同意するにつきましては、なお幾多の研究しなければならない実態があるのでありまして、梨木委員の修正案の動議提出に対する御意見については、私どもは納得行くところまで参っておらないのでございます。しかしながら結論としては、今申し上げたように原案に賛成であり、修正意見に反対でありますが、少くとも報告書に記載されてあるところによると、生活保護とか、全面就労、反税というようないろいろな点がつかれてありまして、共産党の諸君もこれを申しておるのでありますが、私どもは原案に賛成する立場におきましては、共産党の梨木君から指摘されている原因の問題については、なおここにお互いに国民の代表としてよくこれを掘り下げて考え、そうして国民大衆の生活の安定をはかられるように特に要望いたしまして、社会党を代表いたしまして討論といたす次第であります。
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