2019年5月24日金曜日

昭和25年12月09日 参議院 本会議

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/009/0512/00912090512010a.html

[013]
日本共産党 須藤五郎
私は日本共産党を代表して、最近神戸市に起ったところの朝鮮人事件に関し、吉田総理並びに大橋法務総裁に質問いたしたいと思います。

先ず最初質問に先立ちまして、なぜかくのごとき事件が神戸に起きたか、我が党が調査したところの真相をここに述べまして、政府当局及び同僚諸兄の御参考に供したいと思います。事の起りは去る11月17日神戸市長田区役所に14~15名の朝鮮人が訪問し、生活保護法の適用と完全就業及び市民税の減免の交渉に参ったのであります。その時に区長は各個人に対しまして調査の上善処すると約束したのであります。その後20日になりまして、再びその約束の実行されるよう督促するために区役所へ参りましたところ、今度はその中の3名を検束し、合法的な交渉に対しまして意識的な弾圧を以て臨んで参ったのであります。当日その3名のうち2名は釈放されましたが、1名は留置して帰さなかったのであります。そのために、24日になりまして、前述の要求に検束者を釈放して欲しいという1項目を加え、これを区長に示し、協力方を要請したのであります。そこで区長もこの要請を容れて、共に長田警察署に行ったのでありますが、その交渉の留守中に、警官200~300名を動員し、ぶつ、蹴る、殴るの弾圧を始めたのであります。これを聞き伝えましたところの朝鮮人は、自分たちの父母や兄弟たちの安否を気遣いまして、朝鮮人経営の西神小学校で授業中の子供たちまで先生の阻止を開かずに駆けつけたのであります。これに対しまして警官諸君はどんな弾圧を加えたか。即ち14~15歳の女の子供を椅子に縛りつけたり、又手錠をかけたり、胸を泥靴で踏んだり、ひどいのは12~13歳の子供の手を折り、又お母さんに抱かれていたところの赤ん坊の頭まで殴って負傷させたということであります。

私は日本政府の朝鮮人に対する基本的な態度を総理にお伺いいたしたいと思うのであります。朝鮮人諸君は40年の久しきに亘りまして日本帝国主義の弾圧の下に奴隷的苦難の生活を強いられて来たものであります。特に第二次世界大戦におきましては、日本の戦力のために大きな犠牲を払い、或る者は戦場に屍をさらし、又飛行場の建設にも、石炭の採掘にも、あらゆる日本の施設は、これすべて朝鮮人の血と汗の塊であります。(「その通り」と呼ぶ者あり)この全く申訳のない朝鮮人諸君に対しまして、政府はどれだけの反省とお詫びをいたしましたか。何ら反省するところなく、帝国主義的な夢を未だ貧ろうとしているのではありませんか。(「ノーノー」「その通り」と呼ぶ者あり)だからこそ今日尚、前述のごとき暴圧を加えて何ら恥ずるところがないのであります。尚、今日、在日朝鮮人諸君の生活が如何に苦しいか、その一端を述べたいと思います。戦後あらゆる産業から閉め出された朝鮮人は、止むなく心ならずも闇行商、密造酒等によって(笑声、「笑いごとでないぞ」と呼ぶ者あり)生活を支えて来た人人もありますが、最近はそれさえも帝国主義的取締によって弾圧され、或る者は鉄屑を拾って飢を凌ぎ、又或る者は自由労働者として働いておるのであります。ところがその就業日数さえ、神戸におきましては1ヶ月平均12~13日ということであります。あまつさえ驚くべきことには、この苦しい労働者に対しまして、又生活保護法の適用を受けておる者にさえ450円の税金をかけておることであります。これらの例はその一端に過ぎません。朝鮮人の生活は日増しにその困難さを加えて来ておるのであります。

前述いたしました24日の非常識な大暴圧の結果、全県の朝鮮人が心配と激高の余り、27日西神小学校校庭に集まり、全朝鮮民族の問題としてこれを解決せんとしたのであります。これに対しまして警察当局は甲号指令を発し、2000名余の武装警官を出動させ、これを包囲したのであります。そうして事実上解散のできないように陥れて置いて解散を命じ、出て来る者を一人々々検束する態勢を整えたのであります。(「誰が扇動したのだ」と呼ぶ者あり)ここにおきまして朝鮮人諸君は、同じ検束されるならば共にされようと悲痛な決心で腕を組んで正門から脱出したのであります。ところが不思議なことには、これをやり過しておいて、5~6町行った人家の少い焼跡の道路にさしかかると、前以て前方に待機さして置いたところの数100名の警官と後方から押しかけて参りました数100名の警官とで挟み打ちをやり、大混乱に陥れたのであります。そのときたまたまそこを通りかかりました老人や青年さえも朝鮮人であるということのために暴行を加えられ、頭を割られた者が出たそうであります。これは恰かも大正12年9月の大震災のときに、朝鮮人なるが故に罪なくして虐殺せられたのと揆を一にするものではありませんか。(「ノーノー」「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)この暴圧に対し、足立代議士及び我が党の井之口代議士が調査に参り、市警局長古山氏に面会、実情の報告を求めましたところ、彼は曰く、一切自分は実情を報告する意思がない、自分は今まで民主主義的にやって来たが、最近は考えが変って来た、これからは、やり方を変える決心を持っておると公言したのであります。かかるものの考え方こそ、今回の神戸事件を起し、又東京震災のときに虐殺事件を起した原因だと思うが、法務総裁はどう考えられるか、お伺い申上げたいと思います。

尚一つ政府の忘れてはならぬ問題があります。それは朝鮮はもはや日本の植民地ではありません、立派な独立国だということであります。従って独立国民としての敬意を払わざる限り、彼らからの反発は避けられないものと思うのであります。心ある同僚諸君もみずからその立場においてよく考えて頂きたいと思うのであります。先ず他を責める前に深く過去の行為に対して反省することこそ我々の務めだと思うが、この点、総理はどう考えておられるか、伺いたいと思うのであります。朝鮮人諸君の自由の生活を保障することがかかる事件をなくする唯一の途だと思うが、総理はどう考えられか、お伺い申したいと思います。

以上申述べましたごとく、今回の事件は取締当局の行き過ぎがその原因であります。然るに政府は、あらゆる報道機関を動員して、この事件の裏面に共産党があるごとく報じ、その背後を究明せんとしています。(「その通りだ」「何がその通りだ」と呼ぶ者あり)この事件を第二次、第三次の三鷹事件にせんとする陰謀が見えるのでありますが、その背後こそは即ち吉田内閣の悪政そのものではないでしょうか。(「そうだ」「悪政だよ」と呼ぶ者あり、拍手)よく胸に手を当てて御反省願いたいのであります。(「共産党の扇動だ」と呼ぶ者あり)曽てヒットラーはユダヤ人の弾圧を利用してナチス・ドイツを作りました。又みずから議事堂に火を放って共産党弾圧の口実を作りました。今日吉田総理は、朝鮮人弾圧に名をかりて、ひたすら戦争への道を驀進せんとするのかどうか。責任ある答弁を願いたいと思うのであります。今日の政治の行き方を考えるとき、再び愛する青年たちが戦場に動員される時の遠くないことを感ぜられて、憂国の念に堪えないところであります。(「寝言を言うな」と呼ぶ者あり)日本共産党は、祖国を護り、人民を破滅から守るためには、如何なる暴力にも屈服するものでないことを申上げて私の質問を終りたいと思います。(拍手)

[014]
内閣総理大臣・外務大臣 吉田茂
お答えをいたします。

今回の神戸事件について政府への報告によれば、何ら人種蹂躪の跡はない。又警察官としての行き過ぎたところはないのであります。(拍手、「しらじらしいぞ」と呼ぶ者あり)

而してこれが仮に吉田内閣の悪政の結果とすれば、或いは共産党の使嗾の結果であるとも考えられるのであります。私は、日本政府としては、朝鮮人に対しては法律によって合法的の保護を与えておるのであります。故に諸君が若し朝鮮人に関係になるならば、どうか朝鮮人に対して、合法的に生活をせよ、然らば政府は合法的な保護を与えるのである、又日本の治安を飽くまで維持しろと、こうあなたが朝鮮人に対して勧告されるがいい。(拍手)

[015]
法務総裁 大橋武夫
須藤君の御質問にお答えを申上げます。(「正確に言えよ」と呼ぶ者あり)

神戸市警察局長古山君の言動について只今お話があったのでありまするが、私はこれについては何ら報告を受けておりません。併しながら警察の民主化というものは新警察法の精神でありまして、警察はこの精神に副うて、国民の権利と自由を尊重いたしまするために、社会のすべての障害を除去して参るというのがその使命でございます。従いまして民主的な警察の運営をやって行くということは、これは今日警察として当然のことであります。(「それをやらないから問題が起っておるのだよ」と呼ぶ者あり)自治警察といえども又この線に沿うてやっておるということを私は確信しております。

尚、須藤君のお話の中に、政府が神戸事件に関連いたしまして共産党の陰謀であるというようなふうに言論機関を動員いたして宣伝をしている(「そうだ、その通り」と呼ぶ者あり)ということを申しておったのでありますが、政府は何らこの問題に関しましては言論機関を動員いたしたる事実はございません。(「嘘をつくか」「その通り」と呼ぶ者あり)

ただ神戸事件当日、不法行為に出ました朝鮮人が日本共産党という署名のありまするビラを配布いたしておった事実があるのでございます。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)捜査当局といたしましては、このビラが真に日本共産党より出たものであるかないかは別といたしまして、その真相を十分に究明する必要がある。(拍手)かように考えて捜査を続行いたしている次第でございます。(「正直な真相を究明せよ」と呼ぶ者あり)

治安上危険且つ有害なる行動に出る慮れのあると認められまする人々に対しましては、国籍の如何を問わず、これに対し必要なる措置をとるべきことは、これは当然でございまするが、特に一部の朝鮮人に対しては、かくのごとき将来の危険を予防いたしまするため適切な措置を講ずる必要がありと認めますので、政府といたしましては慎重にその方法を考究中であるということを申し添えて置きます。(「正しくやって呉れ、再質問々々々」と呼ぶ者あり、拍手)



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